ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

14 腰痛

検査より、まず痛み止め

「腰」を表す漢字は、人が腰に手を当てた腰の象形から、当初は「要」であった。しかし、この「要」が「かなめ」の意に用いられるようになったことから、にくづきを付けて「腰」が作られた。読んで字のごとく腰は人体のかなめである。また、「へっぴり腰」に「および腰」、「逃げ腰」と腰に関わる表現も多い。

腰は体を支える支柱の基部として過大な力学的負荷を強いられ、かつ複雑な関節構造により可動性を要求されている。支持性と可動性との相反する機能を持っているために、その機能にアンバランスを来すと周囲の神経を刺激して痛みを発生させるのだ。従って、腰痛は人類が四足歩行を卒業して直立歩行を始めたがゆえの宿命的疾患といえる。

この腰痛のなかでレントゲンやMRIには特別の所見がなく、神経学的にも異常を認めないものを「腰痛症」と診断するが、軟部組織の異常ないしは不良姿勢などによってもたらされた筋筋膜性疼(とう)痛であることが多い。一方、画像診断で異常を認めるものとしては、加齢による変形性脊椎(せきつい)症、椎間板ヘルニア、腰椎すべり症、腰椎圧迫骨折などが挙げられる。

「まずは診断がついてから」と考える医師も多いようだが、痛みのために身の周りのことや寝返りさえできないと訴えられる患者さんにやれMRIだ、やれ造影だでは本末転倒と言わざるを得ない。私は、何よりも痛みを止めることが先決であると考えている。従って、私どもの施設では、検査はレントゲン撮影のみに留め、診断的意義を含めてトリガーポイント注射や種々の神経ブロックを施行する。その上で、諸々の検査を行い、治療に対する反応性を含めて診断を構築していく。筋筋膜性疼痛であれば一度のトリガーポイント注射によっておさまることも少なくない。

閑話休題。民俗学者の柳田國男は『故郷七十年』の中で、「腹に力を入れて腰をちょっと落として歩いた日本男児が、吹けば飛ぶような歩き方に変った」と慨嘆していたが、近年の腰痛の増加は、文化と大きく関わっているのかも。現代人はもう少し腰を落として謙虚に生活した方がよいかもしれない。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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