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35 痛がりは誰だ!?[下]

経験や心理状況によって左右

前回は、年齢、性別によって痛みの感受性や抵抗力が異なると述べたが、その他、痛みには様々な要因がかかわってくる。

痛がりの程度を職業別にみると、ビジネスマンやOLは痛みに対する抵抗力が弱く、少しの刺激であっても痛みとして認知すると考えられている。一方、農業や漁業に従事している人は、常に種々の刺激に晒(さら)されていることから抵抗力が強い。

また、一日のうちでも痛みの感受性は変化する。家事や仕事に従事している場合には、朝の十時頃に痛みの感受性が低くなり、夕方の六時頃になると感受性が高くなって、夜中に最高に達する。

季節や天候の影響も大きい。一般的には、春先や秋口、低気圧の接近などによって痛みは強くなる。

なお、痛みは心理的な影響を受けやすい。何かに熱中していると痛みをあまり感じないが、恐怖心や不安があると痛みは増強する。負傷した兵隊と一般市民について調べたところ、強力な鎮痛薬を必要とした人は兵隊では約30%、一般市民では約80%であった。つまり、強い恐怖心や不安を感じていた一般市民のほうが痛がりだったわけだ。

以上、前回ならびに今回の内容からは、痛みに対する感受性や抵抗力は、様々な要因によって影響を受けることが判明した。痛みには、痛みを感じ始める「下限」(感受性)と、もうこれ以上は我慢できないとする「上限」(抵抗力)とがあるが、「下限」は過去の経験や現在の環境に大きく左右され、「上限」は心理状態によって変化するのである。

これらの結論から、痛みに対する日常の基本姿勢を一言で言うならば、「痛みとは真っすぐに向き合うべきではない」。私が、常日頃、患者さんに説明していることであるが、「痛みが存在する部位に意識を集中せずに、他のことを考えてのほほんと過ごすこと、何よりも恐怖心や不安を捨て去る努力をすること」である。痛みのセルフコントロールにはディストラクション、つまりは気分転換が必要なのである。過去の経験が大きく影響すると述べたが、過去にとらわれていてはいけません。現在の痛みをどう咀嚼(そしゃく)していくかが何よりも重要なのである。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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