ドクター森本の痛みクリニック

ホーム > ドクター森本の痛みクリニック > 52 歯科治療後に残る痛み

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

52 歯科治療後に残る痛み

まず「三叉神経痛」との識別を

「歯を抜いたが、その後も抜いた歯やその周囲に痛みが残っている」として、私どもの施設を受診される患者さんがおられる。一般的に抜歯後の痛みが二十四時間以上続くことはなく、腫れも三日後をピークとして軽快する。しかし、以下に紹介するような病態が存在する場合、痛みの残存をみることがある。ちなみに歯や歯槽(歯が埋まっている骨の穴)の知覚を伝える神経は三叉(さんさ)神経であることから、このような場合には、第一に三叉神経痛との鑑別を行っておく必要性がある。

①ドライソケット…抜歯窩(か)(歯を抜いたあとのくぼみ)での血餅(けっぺい)(血液の固まったもの)の形成障害ないしは脱落によって骨壁が露出することで発症する。抜歯後二~三日で生じ、十~四十日間持続する。不快臭、冷水や接触による痛みなどを来たすが、局所に炎症所見はみられない。下顎第3大臼歯(親知らず)抜歯後の発生率が高く、喫煙や経口避妊薬の使用がその誘因として挙げられる。治療は、抜歯窩の再掻爬(そうは)、露出骨壁の削去、採血した血液の充填(じゅうてん)などが行われる。

②抜歯後カウザルギー…抜歯による末梢(まっしょう)神経損傷によってアロディニア(通常は痛みとして感じない刺激で痛みが引き起こされる状態)や痛覚過敏が発生することがある。四肢のカウザルギーとは異なり、循環障害を認めることは少ない。最近では、インプラント埋め込み術後に本症の発生をみたとする患者さんも多い。ペインクリニックでは星状神経節ブロックを行っている。

③幻歯痛…四肢の幻肢痛と同様に、抜歯窩の残遺によって異常感覚や灼熱痛を三叉神経の分布領域に生じるものである。星状神経節ブロックに加えて抗うつ薬、抗痙攣薬の投与などで対処している。

④航空歯痛…飛行機に乗って高空を飛行した際に、抜歯部位に痛みを生じる。歯の治療を受けた既往のないものには発生しないことから、中枢神経系の記憶痕跡によるものと考えられている。先日も、本症と考えられる患者さんが受診された。「飛行機が巡航高度に達する頃に奥歯に激しい痛みを生じ、着陸と前後して痛みは消失した」とのことである。他の医者から「三叉神経痛」と診断され抗痙攣薬の投与を受けたが、「再び痛みが」との恐怖から服用をやめることを躊躇(ちゅうちょ)されていた。しかし、三叉神経痛とは痛みの性状が異なることから、服薬中止を指示したが、その後、痛みの再燃はみていない。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

ページトップに戻る
Copyright © Morimoto Clinic. All Right Reserved.