ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

71 帯状疱疹の痛み

神経痛への移行予防が重要

日本人が平均寿命まで生きると仮定すると、実に六人に一人の方が「帯状疱疹(ほうしん)(ヘルペス)」を発症するとの試算がある。高齢化に伴ってその数は増加し、現在、わが国の患者数は年間六十万人に達する。帯状疱疹は、小児期に感染した水疱(水ぼうそう)のウイルスが再び暴れ出すこと(回帰発症と呼ぶ)で引き起こされる。

ウイルスが末梢神経を傷つけると、その神経が支配する皮膚に違和感、「ピリピリ」とした痛みを生じ、三~四日後には帯状の水疱を作る。水疱は三~四週間でかさぶたとなって脱落するが、そのころに、それまでとは性質が異なる激しい痛みが発生することがある。この痛みが「帯状疱疹後神経痛」である。

この場合には、「ヒリヒリ」「チカチカ」とした耐え難い痛みが一日中続き、その上に「灼(や)けるような」「電気が走るような」痛みが加わる。また、他のニューロパシックペインと同様に、痛みのある部位を針で刺しても痛くない、あるいは軽く触れただけで鋭い痛みが誘発されるといった不思議な状態を呈する。このことは帯状疱疹による痛みと帯状疱疹後神経痛とでは、その成り立ちが異なることを裏付けている。

帯状疱疹の治療にあたっては、神経痛への移行予防を心掛けなければならない。早期からの抗ウイルス薬の投与や神経ブロック療法により、予防は可能だ。

しかし、いったん帯状疱疹後神経痛への移行がみられると、その治療は一筋縄ではいかない。種々の神経ブロック療法に加えて、三環系抗うつ薬や抗痙攣(けいれん)薬を処方するが、数回の治療で軽快を得るものではない。

なお、独ケルン大学のサバトフスキー医師は、プレガパリン(欧米ではニューロパシックペインの薬物として用いられているガバペンチンの仲間)を投与したところ、約30%の患者さんで痛みが半減したと報告している。わが国でも、このプレガパリンの臨床試験が計画されており、多くの方が痛みから解放される日も遠くはない、と考える。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

ページトップに戻る
Copyright © Morimoto Clinic. All Right Reserved.