ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

88 消炎鎮痛薬

「副作用なし」はまだ遠い道のり

今回は、痛みと密接にかかわる薬の歴史について紹介したい。古代ギリシャ時代には、セイヨウシロヤナギの樹皮が、痛みと発熱に効くことが知られていた。十九世紀には、このヤナギの樹皮の有効成分が「サリチル酸」であることが確認され、関節リウマチや歯痛、風邪などに広く用いられるようになった。

その後、ドイツの製薬会社が、サリチル酸をアセチル化することで「アセチルサリチル酸」の合成に成功した。このアセチルサリチル酸こそがアスピリンであり、歴史上で最も売れた薬の誕生となる。

アスピリンはプロスタグランジンを合成する酵素シクロオキシナーゼ(COX)の働きを抑制し、炎症と痛みを抑える。プロスタグランジンが合成されると発赤、腫脹(しゅちょう)、痛みが起こり、一方でプロスタグランジンが減少すると痛みを誘発する物質の活動が低下する。このCOXに作用する薬を、副腎皮質ホルモン薬と区別して「非ステロイド系消炎鎮痛薬」と呼ぶ。

こうして、より強力な消炎鎮痛薬の開発競争が始まり、現在では、経口薬に留まらず、坐薬、塗布薬、貼付薬など、実に多くの消炎鎮痛薬が販売されている。しかし、これらには胃腸障害などを引き起こすとの問題が残されていた。

この点に関して、一九九一年には、COXには二つのタイプが存在することが発見され、従来のものが胃腸障害と関係し、新しく見つかったCOX-2が外傷や炎症により急激に増加することが確認された。このCOX-2の活動のみを抑え込むことができれば、副作用を軽減し、かつ十分な鎮痛効果を得ることが可能となる。これがCOX-2選択的阻害薬である。

しかし、である。薬はすべて諸刃の刃という側面を持つ。COX-2阻害薬は、従来の消炎鎮痛薬が持ち合わせていた血栓症の予防効果に欠けるのである。

哲学者サダは、「痛みを救済することで、医師は最も重要な社会的役割を果たす」としているが、副作用なくすべての痛みをコントロールし得る薬を手に入れるには、まだ長い道のりを必要とするようである。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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