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Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

106 在宅自己疼痛管理

大切な時を家族と過ごすために

恩師の兵頭正義教授(大阪医科大学麻酔科)は大腸がんのため亡くなられた。十一年前のことではあるが、点滴瓶を抱えて、ご自宅に通った半年間が鮮明に思い出される。亡くなる直前には入院を余儀なくされたが、「できるかぎり自宅で過ごしたい」との希望はかなえられたものと思っている。この経験をもとに、私は「在宅医療」とかかわりを持つようになった。

高齢化、高騰し続ける医療費に対応する手段のひとつとして、「在宅医療」がクローズアップされ、行政もその方向性を強く打ち出している。この在宅医療の目的は、何よりも患者さんの人生の質(QOL)を向上させることにある。

従来の往診とは異なり、ハイテク技術、器機を用いるものを高度在宅医療と呼ぶ。そのうち、私どもが取り組んでいるのは、「在宅自己疼痛(とうつう)管理」である。

末期がんの患者さんでは、どこで最期を迎えるのかが大きな問題となる。残された時間を家族とともに住み慣れた環境で過ごしたい。病院ではなく、自宅の畳の上でその時を迎えたい、と考えられる方は少なくないだろう。また、家族にとっても心ゆくまでケアに参画できるメリットは大きい。

在宅での疼痛管理を行うにあたっては、持続硬膜外ブロックが威力を発揮する。私どもではアクセス(硬膜外チューブとその受け皿を埋め込む)を用いた管理を積極的に行っている。これにより患者さんは入浴も可能となる。持続硬膜外ブロックには、局所麻酔薬に少量のモルヒネを加えることが多いが、厚生労働省通達により、モルヒネ注射薬の在宅投与と院外処方が可能になったことも追い風となっている。

私の父は八年前に肝臓がんで逝った。背骨への骨転移による痛みに苦しんだが、硬膜外ブロックを行うことによって、最後の数日間を除いて自宅で過ごすことができた。最後の入院中、夜中に小便の介助をする私に「もう、あかんのか?」と尋ねた父の声が耳の奥に残っている。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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