ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

07 頭痛5

もっともつらい「群発」

ドイツの哲学者ニーチェは頭痛発作に苦しみ、ついには発狂した。十二歳のとき、激しい眼の痛みを発症し、結膜の充血、瞳孔の左右不同を伴っていたことから、典型的な群発頭痛だったと考えられる。
この群発頭痛は、片頭痛と同じく血管性頭痛に分類され、脳の血管(内頚動脈などの太い血管)が拡張した結果、その血管周囲に炎症が起こることで発症する。
二十―三十歳代の男性に多く、飲酒や血管を拡張させる薬(高血圧症の薬など)の服用が主な原因だ。群発地震のような頭痛が、一定期間(年に一~数回、二週間~二ヶ月間)に集中して起こり、その期間以外はまったく症状がない。発作は日に一~数回(特に夜間に多い)、一~三時間程度続くが、片頭痛のように痛みが一日中だらだらと続くことはない。
痛みはすべての頭痛のなかで最も激しく、「眼球をえぐられるような」「眼球の奥を圧迫される」「眼に焼け火箸を突っ込まれたような」痛みと表現される。片頭痛では痛みが右や左に移動することがあるが、群発頭痛では痛みは必ず決まった側に出る。なお、頭痛と同じ側の眼球結膜の充血、瞳孔の左右不同、流涙、眼裂の狭小、鼻汁分泌などを伴うが、これらは血管運動神経(自律神経)の異常によって引き起こされる。また、約半数の患者さんが「上あごの歯肉が重い」「目がかすむ」「後頭部が凝る」などといった前駆症状を自覚する。
前駆症状を自覚したら、まず酒石酸エルゴタミンとカフェインの配合薬(カフェルゴット)を服用する。酸素吸入も有効である。十五分程度の吸入が必要なので、スポーツ用の吸入用酸素を三―四本用意するが、医療用の酸素を業者から借りるのもひとつの手である。
なお、ニーチェの思想「amor fati(運命愛)」にはこの頭痛の存在が大きく貢献したとする説がある。頭痛に限らず痛みは極めて個人的な体験であり、他人には理解し得ない。しかし、強い痛みを実体験として持っている場合、他人の痛みを共有できる懐の深さを獲得するのではないだろうか。文学者や思想家に頭痛持ちが多い事実は、このことを裏付けているとも考えられる。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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