Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック
09 頭痛7
「酒は百薬の長」とはいえ…
私が敬愛してやまない作家、山口瞳の名著『酒呑みの自己弁護』は「最後の一杯もうまいけど、最初の一杯もうまい」から始まるが、これは至言である。なお、大酒飲みに限って「酒は百薬の長」(前漢を倒し新の皇帝となった王莽)を声高々に言う。事実、ワインの消費量と虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)による死亡率との間には逆相関があり、フレンチ・パラドックスと呼ぶ。その一方、飲酒と頭痛の発生には切っても切れない関係があるのだ。
この飲酒によってもたらされる頭痛には、二つのものがある。アルコールによって脳血管が拡張して起こる頭痛とアルコール離脱頭痛である。
前者は、飲酒によって誘発される片頭痛や群発頭痛などの血管性頭痛が有名だ。特に赤ワインには血管を拡張させる効果をもつヒスタミンが多く含まれているので血管性頭痛の既往がある方は注意が必要。赤ワインによる頭痛の発生は古くから知られており、紀元前の書物にも「ぶどう酒を飲むと頭痛が起こり…」と書き記されている。同じ赤ワインでも銘柄によってヒスタミンの含有量は異なり、フランス産のものが特に高く、イタリア産のものは低い。なお、蒸留酒はヒスタミンを含まないので、血管性頭痛の既往がある方は、付き合いで飲まなければならない場合、ワインやビール、日本酒ではなく、ウィスキーや焼酎を選ばれた方がよいだろう。
後者のアルコール離脱頭痛はいわゆる二日酔いである。アルコールが体内で分解される際に生じるアセトアルデヒドや酢酸がその原因となる。血液中のアルコール濃度が高くなるに連れて、これらの物質も増加するために痛みもひどくなる。二日酔いになるほどのアルコールを摂取しないことが肝要であるが、飲みだすとどうにも自制できなくなるのは私だけではないだろう。二日酔いになってしまったら、鎮痛薬の服用と水分の摂取に加え、血管を収縮させる作用を持つカフェインを含む飲み物(コーヒー、緑茶、コーラなど)を取る。また、私の経験では、飲酒の前に茵蔯(ちん)五苓散という漢方薬を服用しておくと、二日酔いを予防する効果があるようだ。
―万物の長百薬の長に敗け―
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)