Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック
23 突発性難聴
健康な人を突然襲う
「突然、片方の耳が聞こえなくなった。耳鼻科を受診したが、器質的な異常は認めないと言われた」として、ペインクリニックを受診する患者さんがおられる。「突発性難聴」である。過去に耳の病気を患ったことのない健康な人に起こる感音性難聴で、ある日突然、片側性(稀に両側性)の難聴に気づく。約90%の患者さんが、発症と前後して耳鳴を自覚するが、めまい、耳閉塞、頭痛感、肩こりを伴なうこともある。
わが国の新患発生数は、年間三千~五千人とされているが、現時点では、その原因は解明されていない。昭和四十八年には、厚生省(現厚生労働省)難病対策の特定疾患に指定され、その診断基準のひとつに「原因が不明であること」が挙げられている。しかし、水痘、麻疹(ましん)、おたふく風邪の原因ウイルスによる神経炎、内耳の血流障害、自律神経失調症、大音響の被曝(ひばく)などの関与も考えられている。
治療は、ステロイド薬やビタミン剤、血管拡張薬の投与が一般的である。その他、施設によっては、高気圧酸素治療、ウログラフィン静注療法なども試みられている。
ペインクリニックでは、星状神経節ブロックを行っている。聴力の改善の程度を、聴力検査で確認しながら、だいたい二十回ぐらいをめどに行う。この星状神経節ブロックでは、特に低音域の改善が良好である。
さらに私共の施設では、東洋医学的な治療法も併用している。東洋医学的には、難聴は手の少陽三焦経、太陽小腸経、陽明大腸経、足の少陽胆経といった経路(ツボの繋がり)とかかわりが深いものと考えられており、これらに属する経穴(ツボ)、耳の周囲に存在する耳門、聴宮、角孫などを鍼により刺激する。東洋医学では、難聴と耳鳴を区別して扱うことはなく、同じ病態により生じるものとして捉えているのだ。漢方薬としては、三黄潟心湯、黄連解毒湯、八味丸、滋腎通耳湯などを、その患者さんの「証(しょう)」(体質)に従って投与する。
いずれにせよ、できる限り早期から治療を行うことがポイントである。私の経験では、発症後十日以内に星状神経節ブロックを開始した場合、その治癒率は極めて高い。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)