Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック
22 耳鳴
成人の2割が悩まされる
成人の17~22%が耳鳴に悩まされているというデータがある。患者さんは「ワーン、ゴーン」などの低音性、「キーン、ピー」といった高音性の雑音が絶えず聞こえて、イライラする。眠れないと訴える。また、難聴、耳づまり、自声の強調、めまいなどを伴う場合にはさらに厄介だ。
耳鳴とは「外界からの音の刺激がないにもかかわらず、耳内あるいは頭内に感じられる雑音」で、他覚的耳鳴と自覚的耳鳴に分けられる。
他覚的耳鳴とは血管や筋肉に音源があり、他人にも聞こえる耳鳴である。このうち血管に由来する耳鳴は拍動性耳鳴とも呼ばれ、貧血や動脈硬化、血管奇形によって生じる。筋肉性のものは、口蓋筋や耳小骨筋のふるえによって生じ、「カチカチ、パチパチ」といった音が聞こえる。
一方、自覚的耳鳴とは患者さん本人にしか分からない耳鳴(真性耳鳴とも呼ぶ)で、耳鼻科疾患をはじめとして高血圧、糖尿病などによって生じるが、原因が不明なところも多い。これらのうちでは感音性難聴を伴う真性耳鳴が最も多く、約90%を占める。
この耳鳴研究の歴史をひもとくと、かのヒポクラテスでさえ、耳鳴とは「頭蓋内の血管音であり、発熱や失明時に生じる」と考えていたようだ。当時の治療法に至っては、魔術、外耳道への薬油の注入、禁酒などでアテにはならない。その後、他覚的耳鳴に対する研究は急速な進歩を遂げたが、曖昧模糊(あいまいもこ)とした真性耳鳴は取り残され、第二次大戦以降にやっとスタートラインに立ったといえる。
耳鳴の原因が明らかな場合には、その治療を優先すべきことは言をまたないが、一般的には、様々な薬物の内服、マスカー療法、自律訓練法などが試みられている。ペインクリニックでは、星状神経節ブロックを行うが、特に突発性難聴に伴う耳鳴で、発症早期にこのブロックを開始した場合には、完治を得ることも不可能ではない。また、抗不整脈薬のメキシレチン、抗痙攣(けいれん)薬のカルバマゼピンなどの内服による有効性が報告されている。なお、私どもの施設では、局所麻酔薬やステロイド薬を外耳道内に注入し、直流通電を行う外耳道イオントフォレーシス療法を行い、良好な効果を得ている。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)