ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

28 鍼灸治療

経穴を刺激し「気血」の変調を修復

刺激鎮痛法のひとつに「鍼灸(しんきゅう)治療」がある。この鍼灸治療は思弁的に構築され、かつ紀元前二二〇年ごろに中国で記された『黄帝内経』を原典として伝承された。

わが国の鍼灸治療も中国医学をその源としており、歴史は古い。事実、七〇一年の『大宝律令』では医療法制である『医疾令』を発布し、医博士と並んで鍼博士を定めている。その後、試行錯誤を経て、江戸時代には鍼管を用いる管鍼術が一般的となった。この鍼管は、杉山和一(東京・本所の一ツ目弁天で有名)という検校(けんぎょう)が考案したものである。円筒型の鍼管に細いハリを入れて、鍼管を皮膚に押しつけながらハリの頭を叩くようにして刺入する。これによって痛みなくハリを刺入できるわけであるが、これもメルザックとウォールによる『門調節系説』を応用した技術と言える。

現在では、欧米でも鍼灸治療が広く受け入れられているが、これは一九七二年のニクソン米大統領の中国訪問によるところが大きい。この訪問を機に鍼麻酔が全世界に報道され、一躍注目を集めるようになったのだ。現在、米国では各州が鍼灸の開業免許を認めているほか、フランスに至ってはパリ市内だけでも四千人近い医師が鍼治療を行っているのである。

さて、鍼灸治療では東洋医学的な経路上の経穴(ツボ)にハリを刺入し、灸を据える。東洋医学では、人体には「気血」といった生命を支えるエネルギーが存在すると考えている。この「気血」はある決まった道筋を通って身体の表面や臓腑(五臓六腑)を巡るが、この道筋が経路(十二正経と八つの奇経がある)である。一方、経穴とは経路上にある「気」が出入りする特定部位であり、三百六十四(左右で約七百)の経穴が知られている。病気になると「気血」の流れに変調を生じ、その変調が経路や経穴に反映されるのである。従って変調を認める経穴にハリや灸による刺激を与えて変調を修復し、自然治癒力を賦活させるわけである。

私どものペインクリニックでも、積極的に鍼灸を臨床に取り入れているが、最も良い適応は慢性痛であると考えている。ただし感染症、急性の熱性疾患、出血傾向がある場合には適応とはならない。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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