ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

29 三叉神経痛

顔面に刺されるような激痛が

顔面に激しい痛みが生じ、洗顔、歯磨き、ひげそり、化粧、さらには会話、食事さえもできないとしてペインクリニックを受診される患者さんがおられる。「三叉(さんさ)神経痛」である。顔面と歯、舌の一部の感覚は五番目の脳神経である三叉神経が伝える。従って、俗に用いられる「顔面神経痛」との呼称は間違いである。

三叉神経痛の多くのものは、特発性ないしは本態性と呼ばれ、頭蓋内で小脳の動脈が三叉神経を圧迫することで発症する。発作性の刺されるような激痛(電気が走るような)が、片側の顔面に数秒~数十秒間起こる。触れることにより痛みを誘発する部位(トリガー・ポイントと呼ぶ)が存在し、洗顔や食事などが不可能となるが、感覚の異常を伴うことはない。一七五六年、フランスの内科医ニコラス・アンドレは、あまりの痛さのために顔が歪むことから「疼痛性チック」と命名したほどである。

五十~六十歳代に発症のピークがあり、女性に多い。右側の三叉神経の二番目の枝(頬部)、三番目の枝(下顎部)に好発する。従って、歯の痛みと勘違いして、不必要な抜歯を受けた患者さんも少なくない。

治療には、三つのステップがある。第一段階は抗痙攣(けいれん)薬であるカルバマゼピン(テグレトール)の服用である。しかし、このカルバマゼピンではめまい、嘔気、蕁麻疹(じんましん)などの副作用があり、年配者では服用しにくいことが多い。従って、私どもの施設では、同じ抗痙攣薬であるゾニサミド(エクセグラン)を処方している。

第二段階としては、外来での「神経ブロック療法」の適応を考える。三叉神経の末梢(まっしょう)の枝への薬液注入(局所麻酔薬ないしはアルコールを用いる)を行う。

これで不十分な場合には、第三段階として、入院により、頭蓋骨から三叉神経が出てくる部位を遮断するガッセリー神経節ブロック(アルコール注入ないしは熱による凝固)を行う。

また、脳神経外科では減圧手術(ジャネッタの手術)、「ガンマナイフ」と呼ばれる放射線照射療法なども行われている。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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