Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック
30 顎関節症
まずは大あくびやめること
話題になっている疾患のひとつに「顎(がく)関節症」がある。「生活習慣病」とも考えられ、顎関節の痛み、運動異常、雑音を三徴候とする。痛みは口を開けたり、食物を噛む時などに起こるが、顎(あご)を動かす咬筋(こうきん)に痛みを生じたり、何もしていなくてもズキズキと痛むこともある。口を開けることを制限され、進行すると指の横幅二本分程度の開口も難しくなる。雑音はクリック音と呼ばれ、口を開閉する際に、「カクン、コキン」と特徴のある音を出す。
十五歳前後からみられ、二十~三十歳代の女性に多く、男性の二~三倍の頻度でみられると報告されている。
顎関節は上下(口の開閉)、前後(かみ砕く)、水平方向(すり潰す)への複雑な動きを強いられていることから、常に大きな負担を抱えている。顎関節に異常を引き起こす原因としては、歯科や耳鼻科での治療、あくびなどで大きく口を開ける、爪や楊枝、筆記用具、パイプなどを噛む癖といった外力によるもの。歯ぎしり、くいしばる癖、片側での咀嚼(そしゃく)、頬杖(ほおづえ)など生活習慣によるものとがある。なお、器質的異常として最も多いのは関節円板(骨が直接こすり合わないようにクッションとなる)の前方への転位である。その他、顎関節の周りにある咬筋の緊張もその原因となる。
性格的に神経質なタイプの女性に多くみられることから、ストレスや精神的要素が大きく関与すると考えられている。また、似通った病態を示す疾患としてリウマチ性、淋菌性のものがある。
顎関節症の専門的治療を行うのは、歯科のなかでも口腔(こうくう)外科、補綴(てつ)科、矯正科である。多くの場合、消炎鎮痛薬の投与といった対処療法が中心となるが、関節円板の転位が強い場合には徒手的円盤整位術、その他、バイトスプリント術(合成樹脂のマウスピースを歯に被せる)なども行われる。
私共の外来では、顎関節内への局所麻酔薬とステロイド薬の注入、顎関節周囲の筋肉への局所注射、星状神経節ブロックを行っている。抗不安薬、抗うつ薬の投与が奏功することも多い。しかし、何はともあれ、妙齢の女性であれば、まずは大あくびをしたり大口を開けて笑う癖を治されることをお勧めする。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)