Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック
32 非定型顔面痛
原因の特定は極めて困難
顔面に痛みを生じる疾患の代表は「三叉(さんさ)神経痛」であり、その他、種々の頭痛、耳鼻咽喉科や眼科、歯科疾患などでも痛みを生じる。しかし、これらのいずれにも属さない痛みがある。この分類が困難な顔面痛が「非定型顔面痛」であり、一般的には、「器質的かつ機能的異常を認めない」顔面痛の総称である。
私どものペインクリニックにおいても、他の疾患を除外した後に、非定型顔面痛との診断を下すことは稀ではないが、患者さんの多くは、複数の診療科、医療機関を転々とした後にやっと診断にたどり着いたと訴えられる。
上顎(あご)の奥歯を中心に「うずくような」「締めつけられるような」痛みを自覚するが、その程度は様々に変化する。痛みが存在する範囲は三叉神経痛に類似するが、神経の走行に沿った発作痛ではなく、むしろ自律神経や血管が支配する領域での持続痛である。さらに自律神経の関与を支持する症状として、流涙、顔面紅潮、鼻づまりなどを伴うことがある。なお、この非定型顔面痛の歴史は古く、初めて学術雑誌に掲載されたのは一九三二年で、当初は血管による痛みとしてとらえられていた。
一方で、痛みが存在する部位に知覚低下を認める場合があり、このことから三叉神経の末梢(まっしょう)部位が血管によって圧迫を受けて発症するとの説もある。
また、抑鬱(よくうつ)傾向、心気症傾向、ヒステリー傾向などを認めることがあり、このような場合には、感情の変化により痛みが誘発される。さらに、多くは外傷や手術後に発生することや、口腔内に灼けるような痛みを生じるバーニング・マウス症候群と類似する点が多いことからは心因性要素の関与が考えられる。
このように非定型顔面痛の原因を特定することは極めて難しく、その診断にあたっては、いまだ医療従事者の間にも混乱を生じている。
治療法は確立されていないが、交感神経系の機能を抑制する星状神経節ブロックが効果的である点からは、自律神経や血管の関与が考えられ、塩酸アミトリプチリン(トリプタノール)、マレイン酸セチプチリン(テシプール)などの抗うつ薬が奏功する点からは心因性要素が考えやすい。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)