ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

33 自己緩和法

痛けりゃ大声で泣けばいい

「結核性瘻孔(ろうこう)」による痛みに苦しんだ明治の俳人、正岡子規は、その著書『病牀苦語』のなかでこう書いている。

「知らぬ人の前であらうが、痛い時には、泣く、喚く、怒る、譫言(うわごと)をいふ、人を怒りつける、大声あげてあんあんと泣く、したい放題のことをして最早遠慮も何もする余地がなくなって来た…」。大の大人が「あんあん」と泣いてしまうのだから、その痛みの激しさは想像に難くない。子規はその地獄の苦しみのなかで、「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」を詠んだのであろうか。

では、人は痛いとどうして大声をあげて泣くのだろう。まずは大声を出すことがストレスの解消につながる。カラオケも然りである。私もカラオケとなると、周りの迷惑も省みずに、大声でがなってしまうクチであるが、確かにスッキリしちゃうのである。これにより、筋肉の緊張弛緩(しかん)法(息を止めて筋肉に力を入れて、次いでスッと力を抜くことを繰り返す)を、無意識で行っているのだ。泣いている時や歌っている時には、自然と緊張と弛緩を繰り返している訳である。さらに、大声をあげると意識がその方に移動して、痛みに集中しなくなること(聴覚鎮痛法)などが考えらえる。

その他では、この聴覚鎮痛法の実践により、音楽を聴くこともよい。私の恩師、故兵頭正義教授の研究によれば、「日本人の痛みを癒やすのは演歌や民謡が最適である」と。なかでも石川さゆりさんの『津軽海峡冬景色』がベストであった(私の個人的な好みでは、『風の盆恋歌』を推したいところだが)。ちなみに米国の研究では、ヴェートーベンの『月光』、ドビッシーの『月の光』、ワーグナーの『夕べの星』などがベスト・テンの上位を占めたと聞く。

そして、痛みを軽減するための最も重要なポイントは、真正面から痛みに対峙しないことであり、痛みに意識を集中しないことである。注意転換こそが痛みの自己緩和法の極意なのである。

痛けりゃ「大声あげてあんあんと」泣けばいい。石川さゆりさんのCDを買うことである。それでも駄目な場合には、一人で悶々(もんもん)としていないで、ペインクリニックを受診されることをお勧めする。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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