Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック
45 ペインクリニックの歩み
「疼痛患者に驚異的な治療効果
ペインクリニックとは、「従来の医療では十分に対応しきれない痛みをはじめとして体の様々な不調を専門的に扱う医療部門」である。実際には神経ブロック療法と呼ばれる局所注射をその根幹治療とし、種々の薬物投与や刺激による鎮痛法などを駆使して診療にあたっている。
このペインクリニックは、米コロンビア大学のRovenstineが、様々な局所麻酔薬を疼痛疾患の治療に応用したことに始まる。医療部門として確立したのはワシントン大学のJohn J Bonica教授(苦学生時代にプロレスラーのアルバイトをしていたことから、古傷の痛みに悩まされていたことが有名)である。Bonica教授は、難治性の痛みがトリガーポイントと呼ばれる圧痛点(ツボと一致することが多い)への局所注射で劇的に軽快することに興味を持ち、未開拓だった痛みの治療に神経ブロック療法を応用した。その業績は、一九五三年に発行された『The Management of Pain』(第二版は本文のみで二千百二十ページ)にまとめられている。
わが国では、昭和三十八年に、東京大学附属病院において「麻酔科外来」として産声を上げた。続いて、昭和四十年、私の恩師、故兵頭正義教授が大阪医科大学に外来を開設し、それまでの神経ブロック療法と東洋医学的なアプローチ(鍼灸治療や漢方薬の投与)の併用を提唱した。兵頭教授は昭和四十六年の著『ペインクリニックの実際』の序文において、「とにかくペインクリニックの技術を導入すると、従来もてあましていた疼痛疾患に対し、常識を破る驚異的な治療効果をあげることも可能である」としている。
以後、ペインクリニックは麻酔科医の手によって心身医学的療法、理学療法、手術的治療などの診療手段を取り入れた上で、発展を遂げてきた。現在では、その規模や治療内容は様々ではあるが、すべての大学病院がペインクリニックを開設している。しかし、「ペインクリニック」との標榜(ひょうぼう)が認められていないことから「麻酔科外来」としていることが一般的である。
私がペインクリニックを志して二十三年、様々なことがあった。色々な患者さんと出会えた。それらの経験を基に、次回からは、ペインクリニックで扱う疾患とその治療法を紹介していく。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)