ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

61 低髄液圧症候群

外傷などによる髄液漏れが原因

最近、マスコミにおいても「低髄液圧症候群」が広く取り上げられている。髄液(脳脊髄液)は、脳の表面~脊髄を包んでいる膜の下を循環している液体である。硬い骨に囲まれている脳や脊髄は、髄液のなかに浮いており、外力に対してこの髄液がクッションの役目を果たしているのである。低髄液圧症候群は、髄液が何らかの原因によって漏れ出て(髄液漏と呼ぶ)、頭のなかの水圧(髄液圧)が低下することで発症する。頭痛、吐き気、眩暈(めまい)などを起こすが、頭痛は脳の表面の構造物が引っぱられることが原因と考えられている。

寝ている時にはさほどでもないが、座ったり立ち上がったりすることで悪化する頭痛(牽引性頭痛)を特徴とする。集中力の低下、眼球の運動障害、聴力の低下、意識障害などを伴うこともある。診断にあたっては、造影MRIで脳表面の膜の肥厚、放射性同位元素を用いた造影での髄液の漏れの確認がポイントとなる。

さまざまな外傷、例えば交通事故後の外傷性頸部症候群(鞭打ち症)、スポーツ障害、頸部への過度のマッサージなどにより髄液漏が発症するが、これは外力によって髄液圧が一時的に上昇して、脊髄から出る神経を包んでいる膜が破れることに起因する。ペインクリニック領域では、腰椎麻酔(虫垂炎の手術の際などに行われる)や髄液検査、さらには硬膜外麻酔施行時に偶発的に生じた硬膜穿刺の後などにみられる頭痛として扱うことが多い。

発症初期であれば一~二週間程度の安静臥床、点滴によって治ることが多い。また、カフェインを含んだ鎮痛薬が奏功する。重症例に対しては、漏れを生じている部位の硬膜外腔(脊髄の背部の存在する空間)に、患者さんの血液10~20ミリリットルと注入して蓋をする治療法(硬膜外自家血パッチ療法)が行われる。

しかし、外傷後に生じた頭痛のすべてが低髄圧によるものではないし、また、頸部からの髄液漏に対して腰部からの硬膜外自家血パッチ療法を行うことなどは適応外といえる。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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