Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック
62 フェイルドバック症候群
腰の手術後に痛みやシビレが残る
「手術を受けたが、腰の痛みや下肢のシビレが良くならない」として受診される方がおられる。腰椎(ようつい)椎間板ヘルニア、腰椎分離・すべり症などの腰椎疾患での手術成績不良例は約10%にのぼる、とのデータがある。これらを「フェイルドバック症候群」と呼び、再手術、再々手術を余儀なくされることがある。私は、「計八回の手術を受けた」とする方の治療を経験している。
本症候群の発症原因は、①手術直後から症状に変化がない、あるいは悪化した場合。手術前からの神経障害の回復遅延、手術中の神経損傷、不十分な手術手技などが考えられる。②手術後に一時的に症状の軽快をみたが、その後に症状が出現した場合。手術後二年以内では、本来の病態の再燃、神経根(脊髄(せきずい)から出る末梢神経の根元)周囲の癒着、癒着性くも膜炎の発生が考えられる。二年以上たってからでは、手術前とは異なった病態の出現が疑われる。これらのうち①、②の神経根周囲の問題、癒着性くも膜炎では、再手術の適応はないと考えてよいだろう。
ペインクリニックでは、再手術の適応がない患者さんに対して、持続硬膜外ブロックを中心とした治療を行ってきたが、癒着があると薬液が十分には拡がらないことがある。これに対して、最近では、「経皮的埋め込み脊髄電気刺激療法」(PISCES)ならびに「硬膜外腔鏡」が注目されている。
PISCESとは、硬膜外腔(脊髄の背部に存在する空間)に専用の電極を挿入し、低周波刺激を行うものである。私どもの施設では、三十四人の本症候群の患者さんに電極の挿入を試み、三十一人で良好な効果を得ている。
一方、硬膜外腔鏡では、専用の内視鏡を硬膜外腔に挿入して、大量の生理食塩水などを注入する。これにより、主として神経根周囲の癒着を剥離して炎症物質を洗い流すのである。
本症候群において最も重要なことは、その予防である。腰下肢痛のなかでも、脊髄腫瘍や巨大な椎間板ヘルニアを除けば、手術の絶対適応は思いのほか少ないことを付け加えておく。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)