Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック
64 痛みの気象予報
気圧、温度、湿度…要因は不明
「痛みが強くなってきたから、明日は雨です」と断言される患者さんがおられる。これが不思議と当たってしまう。古来、「夕方子供が騒ぐと雨になる」との諺(ことわざ)があるが、低気圧の接近通過に伴う身体条件の変化を如実に表している。同様に、中国では「腰骨痛、雨打洞」、米国は「足の親指が痛むと雨になる」である。まさに「天候は万病の元」である。
ヒトを含む生物と大気環境の時々刻々のかかわりを研究する分野に「生気象学」がある。例えば二十世紀前半に、オーストラリアで、フェーンが吹くと気分が不安定になったり、自殺者が増加することが実証されている。このように気象条件と関連して症状が変化する疾患を「気象病」と呼ぶ。
さて、痛みを生じる疾患のなかにも気象病としての側面を持つものは多く、「天気痛」と呼ばれる。しかし、気象のどの要素の変化を、身体のどの部分でとらえているのかについては不明な点が多い。これに対して、高圧酸素治療室を使って気圧、あるいは温度、湿度を変化させての実験が試みられている。
その結果、①痛みは低気圧の接近や通過によって増悪する、従って雨が降る前が最悪であり、降ってしまうとむしろ軽快する②関節は、気圧の低下によって膨張し痛みを生じる。炎症が強いほど、その変化は大きい③温度低下による痛みの増強は、交感神経が刺激されることによる④湿度の上昇も痛みを増強する。しかし、近年の冷暖房の普及で、温度や湿度の影響は少なくなっている。以上により、気象、とりわけ寸前に起こる変化の正確な予知が早期治療を可能にする。
一方で、天気痛には心因要素が関与する。つまり、気象変化がストレッサ―となり、大脳辺縁系を中心とする感情の変化を生じて、自律神経系に病的な変化をもたらすのである。従って、「痛みは気から」の「気」は気象であり、感情である、といえる。
―乳癌の傷跡痛めば雨なりと予想せるクランケ当たりて悲し―
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)