Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック
65 線維筋痛症候群
ストレスも影響、軽い運動心がけて
「線維筋痛症候群」とは耳慣れない病名ではあるが、米国での患者数は実に三百七十万人である。わが国での患者数は正確には把握されていないが、決して希有な疾患ではない。
中年の女性に発症することが多く、全身の痛みに加えて、倦怠感、こわばり感、睡眠障害、さらには微熱や過敏性腸炎を伴うこともある。重症例では、爪を切る際のわずかな振動が刺激となって痛みを引き起こしてしまう。
このような場合、「関節リウマチ」が疑われるが、血液検査、レントゲンでは異常を認めず、筋電図や筋肉の酵素にも問題点はみつからない。従って、「自律神経失調症」「更年期障害」などとして片付けてしまわれることも多いようだ。
患者さんの多くが発症時に、過労や(対人関係や家庭内での)何らかのトラブルによるストレスを抱えていたとするデータがある。困ったことに、痛みがあるものの、診断にいたる客観的証拠が存在しないことから、周囲の人たちから理解されずにストレスを増幅してしまうのである。
「天気痛」としての側面もあり、特に梅雨時に症状の増悪をみる。
一九九〇年に、米国リウマチ学会がその概念を整理し、診断基準を示している。「三カ月以上に及ぶ広範囲な痛みがあり、十八カ所のポイントのうち十一カ所以上に圧痛点を認めること」が、その基準である。
治療にあたっては、前回紹介した「筋・筋膜性疼痛症候群」と同様に圧痛点を認めることから、局所注射を第一選択とする。私どもの施設では、局所注射を繰り返して行うことで痛みの個所が減少することを確認している。また、抗うつ薬のひとつであるミルナシプランの有効性が報告されている。
ストレスと関連することからも、軽い運動を心がけてリラックスすることがポイントであろう。家族の精神的サポートが重要なことは言うまでもない。現在では、患者さんの会である「線維筋痛症友の会」が立ち上げられている。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)