Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック
68 頸部変形性脊椎症
長時間の車の運転後などに発症
六十五歳を超えた方の約90%で、頸(けい)椎(つい)に加齢変化を認めるようになる。レントゲンを撮ると、椎間孔(脊髄(せきずい)に出入りする神経の通路)が狭くなり、骨(こっ)棘(きょく)(軟骨が骨のように変化したもの)が形成され、椎間関節(脊椎骨を結ぶ関節)に関節症性変化をきたしているのである。
これらの変化に伴って、以下に挙げる症状を認める場合、「頸部変形性脊椎症」(いわゆる頸椎症)と診断する。例えば、首を後屈させる(上を向く)ことが辛くなる。うがいやジュースをラッパ飲みしようとする動作で痛みが誘発されるような場合である。
ラグビーやアメフトなどの競技では、このような変化をきたしやすい。頸部に繰り返して多大な負荷が加わることが原因であり、経験年数が長くなるに連れてその頻度は高くなる。
本症は、頸椎椎間板ヘルニアと同様に、その圧迫を受けている部位別に神経根症と脊髄症に大別される。神経根症では、圧迫を受けた神経が支配する領域に放散する痛み、痺(しび)れ、凝り、筋力低下などを呈する。長時間の車の運転後などに急に発症することが多い。なお、神経根の圧迫は、上肢を挙げて手のひらで後頭部を押さえるような姿勢をとると軽減する(財津一郎さんお得意の後頭部を掻(か)くポーズを想像していただきたい)。
一方、脊髄症では多彩な症状を来す。上肢のみならず下肢の痛みや痺れ、巧緻(こうち)運動(箸(はし)の扱い、書字、ボタン掛けなど)障害、歩行障害のほか直腸膀胱障害(尿意、便意が分からなくなり、自力での排尿、排便が困難)をみることもある。
なお、めまいを伴うことがあるが、これは水平に伸びた骨棘が椎骨動脈を圧迫した結果、脳底部への血液の供給が不十分となって発生する。特に首を回旋した際に起こりやすい。同様の機序により耳鳴り、失神発作を来すこともある。
私どもの施設では、星状神経節ブロック、腕神経叢ブロック、頸部硬膜外ブロックに加えて、非ステロイド性消炎鎮痛薬、抗不安薬(エチゾラム)の投与などを行っている。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)