Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック
73 めまい
脳の血流不全や内耳障害に起因
文豪スタンダールがフィレンツェで絵画を鑑賞中に倒れてしまったとの逸話から、「スタンダール症候群」と命名された病態がある。その後も、大聖堂や教会で壁画や天井画を鑑賞している最中に、急激なめまい、ひどい場合には失神発作に襲われる人が続出し、メディチ家の呪いと考えられた。現在では、同様のことが歯科での治療、美容院でシャンプーを受けた後に起こる(「美容院卒中症候群」)ことが知られている。
これらは頸部(けいぶ)の後屈(上を向く)を続けることで、頸椎のなかを走る椎骨動脈が圧迫を受けて、脳への血流が不十分となった結果発症するのである。
さて、「めまい」である。めまいは周囲がグルグルと回るような「回転性めまい」と、フラフラとする動揺感、フワフワとして地に足がつかない浮遊感を生じる「仮性めまい」に大別される。
回転性めまいの多くは内耳の障害に起因する。身体の平衡は、内耳にある前庭(重力や直線的な加速度を感知する)や、三半規管(同じく回転を感知)、脳への視覚や筋肉からの情報によって総合的に保たれているが、その機能に変調をきたして生じる。代表的なものとして「メニエール病」「良性発作性頭位めまい」「前庭神経炎」「突発性難聴」などがある。
一方で、仮性めまいの多くは脳の血流障害や自律神経失調によってもたらされる。脳の血流障害によるものでは、脳に血液を供給する椎骨脳底動脈の閉塞(へいそく)、狭窄(きょうさく)が原因となることが多い。従ってスタンダール症候群は、その代表といえる。自律神経失調ではめまい以外にも動悸(どうき)、息切れ、手足の痺(しび)れなど多彩な症状を呈し、ストレス、疲労の蓄積、睡眠不足などによって憎悪する。なお、平衡機能の中枢である延髄や小脳での梗塞、出血、腫瘍によってもこのタイプのめまいを生じるので注意が必要だ。
ペインクリニックでは、自律神経でのバランスを整えるための星状神経節ブロック、抗眩暈(めまい)薬の投与により対処している。回転性めまいでは、重曹の静脈注射が奏功することも多い。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)