Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック
74 日常生活と痛み①
飲酒で炎症増強、飲みすぎ注意
読者の方から「慢性痛がある場合に、日常生活で気をつけるべきポイントを教えてください」との質問をいただいた。慢性痛といっても多種多様であり、例えば頭痛と腰痛とでは注意すべき点は自ずと異なる。したがって、一般的な事柄について述べたいと思う。今回は、酒が痛みにどう影響するのか、である。
最近、酒には特定の病気に対する予防効果がある、との報道をよく目にするが、「百薬の長」としての側面をもつことは事実である。左党のみなさんはわが意を得たりといったところであろうか。確かに酒は「痛み」に対しても有効に作用する。飲酒によって血の流れがよくなり、組織への酸素の供給が増える。さらには局所の発痛物質を洗い流すのである。なお、酒によって痛覚閾値(ある刺激を痛みとして感じる強さ)は約30%上昇する。
この点に関して、恐ろしいエピソードがある。大酒をくらった上に、右肘を窓から突き出し、高速道路を猛スピードで飛ばしていた男性が、接触事故を起こして右肘から先を吹き飛ばされた。しかし、男性は、しばらくその痛みに気付かずに左手一本での運転を続けたとのことである。飲酒運転はいけません。
余談ではあるが、一九七九年、酒の効用についての画期的なデータが発表された。赤ワインには心臓病の予防効果があるというのである。フランスではイギリスと比べて飽和脂肪酸(悪玉コレステロールや中性脂肪を増やし、動脈硬化を引き起こす物質)の摂取量が多いにもかかわらず、心臓発作でなくなる方が少ない。このことは葡萄(ぶどう)の皮に含まれるポリフェノールが、血小板(血液を固める成分)の凝集能を低下させ、心筋梗塞(こうそく)を起こしにくくする、と説明されている。これをフレンチパラドックスと呼ぶ。
しかし、である。炎症がある場合には、酒によって炎症が増強され、痛みは強くなる。また、飲酒後には、反動で血管が収縮して痛みを増やすことがだってあるのだ。過ぎたるは及ばざるが如し。飲みすぎはいけません。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)