Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック
86 神経ブロック療法
局所麻酔で“痛みの悪循環”を断つ
わが国のペインクリニックは、その創成期に「神経ブロック療法」を治療の根幹に据えることで出発した。以後、今日に至るまで、神経ブロックがもたらす局所的かつ全身的な効果を多くの病気に応用してきたのである。したがって、薬物治療を中心とする欧米諸国とは趣を異にして、独自の発展を遂げてきたといえる。
従来、痛みがある場合は、薬を飲んだり、マッサージといった「保存的療法」、痛みの原因を取り去る「手術療法」が行われてきたが、神経ブロック療法はそのいずれでもない。これらの利点を兼ね備えたまったく新しい治療法なのである。
神経ブロックでは、痛みを伝える知覚神経、その痛みの慢性化に関与する交感神経節に針を刺し、主として局所麻酔薬を注入することで痛みの伝達を遮断(ブロック)する。局所麻酔薬が効いているのはせいぜい二時間程度ではあるが、その後も効果は持続する。
それは「痛みの悪循環」と呼ばれる機構を抑え込むことによる。つまり、何らかの痛みがあると、交感神経が興奮し、血管が収縮する。血液の流れが悪くなると、筋肉が硬くなり、局所の組織が酸素欠乏に陥る。これにより痛みを悪化させる物質(発痛物質)が作り出されるのである。この悪循環に対して神経ブロックは、血流を改善して発痛物質を洗い流し、自然治癒を促進する。
また、現代人はストレスによって交感神経が刺激され、さまざまな病気を作り出している。ここでも神経ブロックにより、恒常性維持機能(ホメオスタシス)を高める意義は大きい。
「針を刺すのは怖いなぁ」「痛いのんとちゃうのん」との質問をよく耳にするが、心配には及びません。また、ペインクリニックを専門とする医師が行う限り、その安全性は高い。案ずるより産むがやすし、である。実際に、神経ブロックを受けられた患者さんからは、「早く受けといたらよかった」などの声も聞く。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)