ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

94 多発性硬化症

初期には感覚異常や運動麻痺

「多発性硬化症」では、脳や脊髄(せきずい)、視神経などの中枢神経系に病変が多発するが、今も原因は不明である。神経細胞の周りをぐるりと取り巻いている髄(ずい)鞘(しょう)(ミエリン)が障害される病気を「脱髄疾患」と呼ぶが、多発性硬化症はその代表である。髄鞘は生理学的なコンデンサーの役目を担っていることから、障害によって通常の伝達機能を果たせなくなり、痛みをはじめとするさまざまな症状を引き起こすのだ。

多発性硬化症は、中枢神経系全般において多発する「脳型」と、視神経と脊髄の「視神経脊髄型」に分類される。欧米での有病率は十万人当たり五十人前後であり、二十~三十歳代でみられる脱髄疾患の中では最も多い。一方、わが国を含むアジアでの有病率は十万人当たり五人以下と極めて低く、視神経脊髄型が多く見られる。

視神経脊髄型の初発症状は、視力障害や複視、シビレ感などの感覚異常、運動麻痺である。私が担当した患者さんでは、脊髄での脱髄による胸部のしめつけ感を強く訴えられていた。

単独の検査で診断を確定することは不可能であるが、MRIによって脱髄の場所を確認することが重要である。いずれにせよ、二カ所以上の中枢神経系の病変に基づく症状(空間的多発性)があり、二回以上の再発のエピソード(時間的多発性)を有することが診断の基準となる。

治療法としては副腎皮質ステロイド薬によるパルス療法、インターフェロンベータや免疫調整薬の投与が行われている。私どもの施設では、多発性硬化症による痛みに対し、くも膜下腔へのステロイド薬の注入、経皮的埋め込み脊髄電気刺激療法などを行っている。

この病気を題材とした映画に『本当のジャクリーヌ・デュ・プレ』があり、有名なチェロ奏者の闘病の日々を描いている。ここでは主人公の病状を極めて重いものとしているが、舞台は四十年以上も前のことで、現在の医療レベルとでは大きな隔たりがあることを付け加えておきたい。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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