Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック
95 イオン導入法
痛みなく薬物を病変部に投与
イオントフォレーシス(イオン導入)とは、微弱電流によって薬物をイオン化し、病変部に浸透させる局所薬物投与法である。多くの薬物はプラスないしはマイナスに荷電していることから、直流通電によってそのイオンを電流に乗せて運びこむことができるのだ。したがって、注射などとは異なり、痛みなく施行することが可能である。
一七四七年に、イタリアのペラッティがその原理を紹介し、以後、さまざまな疾患の治療に用いられてきた。わが国でも明治三十(一八九七)年ごろに、「電気透薬術」として歯科治療に応用したとする記載が残されている。一九一一年には鼓膜切開を行う際の麻酔法として検討されている。さらに一九五九年ごろには、歯の知覚過敏症に対してフッ素のイオン導入が用いられるようになり、これが現在の虫歯予防のためのフッ素塗布へと発展したとの経緯がある。
ペインクリニック領域では、一九八二年に、米国の歯科医であるガンガロザが、帯状疱疹(ほうしん)後神経痛に対するイオントフォレーシス療法の有効性を報告している。これを受けて、私どもの施設においても、帯状疱疹後神経痛に対しては同様の治療を広く行ってきた。
現在も局所麻酔薬、副腎皮質ステロイド薬、アスピリン、インドメタシンなどの消炎鎮痛薬、プロスタグランジン製剤の導入によって、瘢痕(はんこん)性疼痛症候群、反射性交感神経ジストロフィー、血流障害による痛み(閉塞(へいそく)性動脈硬化症、レイノー病)などで良好な効果を得ている。さらに、耳鳴症の患者さんの外耳道に局所麻酔薬などを注入するイオン導入法も行っている。
また、抗がん剤、抗生物質、降圧薬、麻薬(フェンタニル)など多くの薬物での応用が検討されているが、例えばインシュリンのイオン導入が可能になれば、インシュリン注射の際の痛みに苦しめられている糖尿病の患者さんが受ける恩恵は計り知れない。事実、米・コーネル大学では、電動経皮インシュリン吸収パッチの開発を進めているところである。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)