Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック
104 がん性疼痛と神経ブロック
局所麻酔薬と神経破壊薬の2通り
Sさん(36)という女性の患者さんから「先生の連載で、神経ブロックで痛みが完全に消えるって書いておられたでしょ。私もそのブロックを受けたほうがいいんですか?」と相談を受けた。彼女は約一年半前に乳がんの手術を受けられたが、今回臀部(お尻の部分)から大腿(だいたい)部にかけての痛みが出現し、再入院されていたのである。外科の主治医から「モルヒネが効かなくて…」と紹介されたが、モルヒネを少しずつ放出するMSコンチン錠を日に240㎎服用されていた。
日本緩和医療学会は、一日に120㎎のモルヒネ(口からの経口投与に換算して)でも効果がない場合を、神経ブロック療法を導入するひとつの基準としている。また、すべてのがん性疼痛(とうつう)がモルヒネにより軽減するわけではないことから、適切な時期に神経ブロックを選択する意義は大きい。
神経ブロック療法は、局所麻酔薬を用いるものと、神経破壊薬による永久的神経ブロックに大別される。局所麻酔薬を用いるものの代表が持続硬膜外ブロックである。脊髄(せきずい)の外側にある硬膜外腔に細いチューブを留置して薬液(局所麻酔薬にモルヒネを加えることもある)を持続的に注入する除痛方法である。背骨への転移による痛みなど、その適応は極めて広い。
一方、永久的神経ブロックでは、みぞおち付近の上腹部内臓に対する腹腔神経叢(そう)ブロック(無水アルコールを用いる)、同じく下腹部内臓での下腸間膜動脈神経叢ブロック、骨盤内臓の上下腹神経叢ブロックなどがよく施行される。痛みの原因診断が確実であれば、これらのブロックにより痛みは即座に消失し、再燃することはない。
Sさんは、がん細胞が背骨に転移していることを告知されており、一日も早い退院を希望されていた。「この春には、末の子供の入園式を控えているの」と話していた。これに対し、私はアクセス(硬膜外チューブとその受け皿を体内に埋め込む)を用いた持続硬膜外ブロックを勧めた。Sさんが痛みから解放され、自宅で子供さんたちと楽しい時間を過ごされることを祈る次第である。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)