Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック
20 顔面神経麻痺
発症はある日、突然
顔面神経は脳神経の一つで、骨の中を走る距離が最も長いため麻痺を発症しやすい。原因は頭や顔の外傷、手術、腫瘍(しゅよう)など様々。外傷による麻痺ではビートたけしさんの例がある。なお、顔面神経麻痺は脳の中の障害による中枢性のものと、顔面神経が側頭骨を通過する部位ないしはその末梢(まっしょう)の障害による末梢性のものに分類される。中枢性のものは片側の顔の下半分のみに麻痺(額の動きは正常)を生じるのに対し、末梢性では片側の顔全体の運動障害を来す。ただ中枢性のものは顔面神経麻痺全体の0.3%と極く稀だ。末梢性顔面神経麻痺の日本での発症頻度は10万人当たり27.9人と、米国の22.8人より高い。
末梢性麻痺で最も多いものが特発性顔面神経麻痺(82%)、次いでラムゼイ・ハント症候群(12%)。特発性顔面神経麻痺は一八一四年にこの疾患を初めて記載したサー・チャールズ・ベルの名をとり「ベル麻痺」と呼び、原因不明の麻痺とされていたが、今では多くが単純疱疹ウイルスの感染によることが分かっている。一方、ラムゼイ・ハント症候群では水痘・帯状疱疹ウイルスがその原因で、耳介を中心に帯状疱疹と同様の水疱を伴い、痛みを生じる。
麻痺はある日突然起こり、日常生活に支障を来す。食物が口からこぼれたり、洗顔時に十分に眼を閉じることができず目に水が入ったり、会話さえ困難になる。その他、障害部位によっては、耳鳴り、めまい、難聴、涙の分泌障害、味覚障害などを伴う。
治療は、耳鼻科では抗ウイルス薬やステロイド薬、ビタミン剤の投与。ペインクリニックでは薬物治療に加え星状神経節ブロック(顔面神経への血流量を増加させ、むくみや炎症の治癒を促す作用がある)で、効果を得ている。筋肉を他動的に動かすと治療効果が上がることから、鍼治療を併用することも多い。なお、障害を受けた神経が再生する過程で、後遺症を残すことがある。会話や食事の際に流涙がみられるクロコダイル現象(鰐(わに)の眼の涙)や、眼を開けたり閉じたりすると同時に口が動いてしまう病的連合運動などだ。後遺症を残さないためにも発症早期からの星状神経節ブロックを勧めたい。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)