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57 絞扼性ニューロパチー(上)

コンピューターの普及で増加

『医学大辞典』(医学書院刊)によれば、ニューロパチーとは「主として末梢(まっしょう)神経の障害を指し、その原因には外傷、代謝異常などさまざまなものがある」である。さて、今回のテーマである絞扼(こうやく)性ニューロパチーとは「末梢神経が靭(じん)帯あるいは骨と靭帯で囲まれた空間を通過する過程で、機械的な圧迫や絞扼(しめつけ)を受けて起こる障害」である。つまり、電車がトンネル内を通過する際に、落盤事故なりに巻き込まれて正常な運行ができなくなった状態と考えられる。なお、上肢(腕~手)では尺骨神経や正中神経がこの障害をきたしやすいが、これらは近年のコンピューターの普及に伴って増加する傾向にある。

尺骨神経は指を閉じたり開いたりする筋肉、環指(薬指)や小指の感覚を支配しているが、この神経の手首での絞扼によって生じるのが「尺骨管症候群」、肘(ちゅう)部での絞扼によるものが「肘部管症候群」である。初期には、環指(小指側)と小指にシビレを生じ、進行によって痛み、手の甲の小指側筋肉の痩(や)せ、環指と小指とが曲がってしまう鷲手を起こす。特に肘部管症候群は野球のピッチャーなどスポーツに由来して発症することが多く、手の甲のシビレも伴う。ペインクリニックでは、尺骨神経ブロック、星状神経節ブロックで対処している。しかし、治癒せずに進行する場合も多いことから、整形外科では早期に神経の剥離、移動などの手術が行われる。

正中神経は、指と手の屈曲運動、母指(親指)、示指(人さし指)、中指、環指の感覚を司っている。この神経の手首にあるトンネル内での絞扼によるものが「手根管症候群」である。特に中年女性で、キーボード操作や楽器の演奏、編み物をされる方などに多くみられる。初期には中指、示指を中心とするシビレや痛みを生じ、環指(母指側)や母指に拡がる(手の甲にはシビレは起こらない)。症状は寒い明け方に強く、手を振ることで軽快する。進行すると母指球筋(母指の付け根の筋肉の膨らみ)が痩せ、いわゆるOKサインができなくなって猿手と呼ばれる状態に至る。簡単な診断法として、指を下に向けて両手の甲を合わせて、約一分後に症状の出現をみるファレンテストがある。

これに対して、整形外科では手関節の固定、消炎鎮痛薬の投与、靭帯の切開術などが行われている。ペインクリニクでは、手根管内への局所麻酔薬とステロイド薬の注入、星状神経節ブロックを行っている。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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