Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック
58 絞扼性ニューロパチー(下)
過度のランニングが原因にも
今回は殿部(でんぶ、おしり)~下肢にみられる絞扼(こうやく)性ニューロパチーにスポットを当てる。
「梨(り)状筋症候群」が有名で、上肢の「胸郭出口症候群」に対して、「骨盤出口症候群」とも呼ばれる。梨状筋は骨盤の後面と大腿(だいたい)骨の頭付近にある突起(大転子)とをつなぐ筋肉で、この筋肉の間で坐(ざ)骨神経がしめつけられると、殿部の痛みや坐骨神経痛を生じる。
過度のランニングが原因となることがあり、腰椎(ようつい)椎間板ヘルニアによる痛みと間違いやすいが、太ももを外側に向かって拡げたり、回したりすると痛みがひどくなるのがポイントである。これに対しては診断的意味を含めて梨状筋ブロックを行う。
一方、股関節の前面を走る外側大腿皮神経が、下肢の付け根にある鼠径靭帯(そけいじんたい)などで絞扼を受けて発症するのが「知覚異常性大腿痛」である。太ももの前面の外側部の感覚異常や痛みを生じる。肥満、妊娠、コルセットやベルトによる過度の締めつけなどが原因となることもあり、股関節を伸ばすと痛みがひどくなる。外側大腿皮神経ブロックなどで症状が和らぐことが多い。
さて、坐骨神経は膝の裏あたりで脛(けい)骨神経と総腓(ひ)骨神経に分かれるが、この脛骨神経の絞扼によるものが「足根管症候群」である。足根管とは脛骨の内果(足首の内側に飛び出た、いわゆる、くるぶし)、距(きょ)骨、踵(しゅ)骨と屈筋支帯によって構成されるトンネルであるが、ここで脛骨神経が絞扼される。長時間立っていると、足底や足趾(そくし、ゆび)に灼けるような痛み、ピリピリ、ジンジンとする感覚異常を生じ、足内側の筋肉の萎縮をきたすこともある。
余談ではあるが、脛骨についてのウンチクをひとつ。脛骨は解剖学用語でtibiaと呼ばれるが、このtibiaはラテン語の縦笛という意味である。古代エジプトでは、人骨を様々な道具として使用したが、脛骨(sebi)は縦笛の材料として重宝されていたそうだ。この縦笛がローマに入ってtibiaと呼ばれるようになったのである。
さて、足根管症候群と似通った症状を呈する疾患に「モルトン病」がある。特に中年女性で、長時間の歩行後、またはハイヒールを履いている時などに足の中趾(ちゅうし、なかゆび)、環趾(かんし、くすりゆび)に激しい痛みをきたすものだが、これは神経腫が原因である。
そのほか、前述の総腓骨神経の枝である深腓骨神経が、下腿部で絞扼され下腿外側部に痛みを生じる「前脛骨筋症候群」もある。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)