ドクター森本の痛みクリニック

Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック

59 多汗症

胸を押さえて化粧崩れ予防

ヒトは汗をかくことで体温の調節を行っており、発汗は重要な身体維持機能である。精神的に緊張すると、自律神経中枢が興奮して一過性の多汗を生じ、「手に汗を握る、冷汗をかく」状態となる。しかし、一過性でなく常に汗をかいている状態にあり、精神的緊張の有無に左右されない場合が「多汗症」である。

統計によれば、米国では、この多汗症に悩んでおられる患者さんは八百万人以上、とのことである。つまり、握手を求められた時に「私は汗かきだからちょっと」と躊躇(ちゅうちょ)してしまう方が八百万人以上おられるのだ。これらの方々は汗をかくために消極的になり、自己評価を極めて低いものにしていると考えられる。

好発部位は手掌と足底、腋窩(えきか)で、前者を「掌蹠(しょうせき)多汗症」、後者を「腋窩多汗症」と呼ぶ。皮膚科では、掌蹠多汗症に対しては、手もしくは足を水道水を満たしたトレイに浸して通電を行うイオントフォレーシス療法、腋窩部の多汗には、塩化アルミニウム水溶液、アルコール溶液の局所投与などが行われている。

また、米国セントルイス大学皮膚科のグレーサー准教授は、腋窩部の多汗症患者に顔面痙攣(けいれん)や斜視の治療に用いられているA型ボツリヌス毒素を各腋窩当たり五十~七十五単位(顔面痙攣の治療で用いるよりもはるかに大量)を注射し、汗の量が80%以上減少したと報告している。しかし、わが国ではこの毒素の使用は一般的ではない。

私どもの施設では、外来での星状神経節ブロック、入院による胸部ないしは腰部の交感神経節ブロックを行っている。なお、最近、ペインクリニックでは胸腔鏡下交感神経焼灼術が行われているが、代償性発汗(身体の他の部位での発汗過多)などの副作用を生じる可能性があり、その適応に関しては議論のあるところである。

さて、ヒトの身体は、ある部分を押さえると押さえた側からの発汗が制御され、反対側により多くの汗をかく、との仕組みを備えている。例えば、両胸を押さえると上半身の発汗が抑制され、下半身の発汗が亢進するのである。

時代劇の女優さんのなかには、この現象を応用して、帯をきつく締めることで汗による化粧くずれを自在に調節される方がおられるそうである。デートの予定が入っている女性には、ブラジャーを少しきつめにして、化粧崩れをセーブされることをお勧めしたい。

(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)

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