Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック
75 日常生活と痛み②
禁煙しゆっくり入浴、ぐっすり睡眠
前回に引き続き、日常生活で痛みに影響する事柄について紹介する。
「健康増進法」が施行され、さらには受動喫煙が健康を害するとの議論がかまびすしく行われている今日、愛煙家はますます肩身の狭い思いをされていることであろう。しかし、慢性痛をもつ方の煙草(たばこ)は禁物。喫煙によって生じる一酸化炭素が組織から酸素を奪い、ニコチンが血管を収縮させて、痛みを増強するからである。
閑話休題。十六世紀半ばのフランスの皇太后カトリーヌ・ド・メディシスは、煙草を頭痛の治療薬として用いたとの逸話がある。この煙草の葉の学名であるニコチアナタバクムの“ニコ”は、当時、ポルトガルからフランスに煙草を持ち込んだ大使ジャン・ニコの名前に由来する。その他にも大航海時代のヨーロッパでは、煙草を消毒薬などとして使っていたのである。
痛み以外であれば、一概に煙草は「百害あって一利なし」とは言いきれない面もあるのだ。実際、煙草にはパーキンソン病やアルツハイマー型痴呆を予防する効果があり、吸えば吸うほどその効果は高くなるとのデータがある。愛煙家には耳寄りな話かもしれない。
入浴はどうだろうか。お風呂につかると、血の流れが改善されて組織の代謝が促進し、筋肉が弛緩(しかん)して痛みが和らぐ。さらには自律神経が安定して、痛みが軽減する。たとえば、帯状疱疹(ほうしん)後神経痛に悩んでおられる方の多くは、お風呂を好まれるはずである。
睡眠に関しては、痛みのために「寝つきが悪い」、または「夜中によく目がさめる」とされる方が多い。睡眠は脳幹の毛様体賦活系の活動低下によってもたらされるが、痛みがあるとその部位が絶えず刺激を受ける状態となるのだ。一方、精神的な理由によって痛みを訴えられる心因性疼痛の場合には、痛みのために目がさめることはない。従って、睡眠は痛みの種類を反映するバロメーターといえる。
酒はほどほどに、禁煙厳守、ゆっくりと湯舟につかって、ぐっすりと眠ることを心がける、である。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)