Dr. Morimoto’s pain clinic ドクター森本の痛みクリニック
79 鎮痛補助薬
抗うつ薬や抗不安薬が痛みを緩和
顔面に刺すような痛みを引き起こす三叉(さんさ)神経痛に対しては、カルバマゼピンが第一選択の薬物として用いられている。このカルバマゼピンは本来、抗痙攣(けいれん)薬、てんかん薬として開発された薬物である。このように本来の作用が鎮痛ではないにもかかわらず、ある病気に対して鎮痛効果をもたらす薬物が存在する。これらは「鎮痛補助薬」と呼ばれる。
ペインクリニックでは、さまざまな痛みに対してこれらの薬物が用いられており、私どもの施設でも、本来の鎮痛薬よりも鎮痛補助薬を処方することが多い。
この鎮痛補助薬には、抗痙攣薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬をはじめとして抗不整脈薬、副腎皮質ステロイド薬など多種多様なものがある。先に述べたカルバマゼピンや抗うつ薬は、ニューロパシックペインと呼ばれる難治性の痛みにも効くことが知られている。また、片頭痛の予防にも抗うつ薬が用いられている。
それぞれの痛みの原因に合わせて、鎮痛薬ないしは鎮痛補助薬を処方するが、どの薬物を選択するかにあたっては、「ドラッグチャレンジテスト」と呼ばれる検査法を試みることが多い。これは、チアミラール、フェントラミン、リドカイン、ケタミン、モルヒネといった鎮痛に至るまでの仕組みが明らかにされている薬物を少量投与して、痛みの軽減の程度を判定するものである。
某大学病院ペインクリニックでのエピソードを紹介する。ある帯状疱疹(ほうしん)後神経痛の患者さんに、鎮痛補助薬として抗うつ薬のアミトリプチリンを処方した。しばらくしてその患者さんが血相を変えて外来に怒鳴りこんでこられた。「わしはうつ病じゃない。痛みを治してほしくて受診したんだ!」と。薬局で手渡された薬の説明書に「うつ病の薬です」と記載されていたことがその原因であったのだ。
慢性の痛みを抱えておられる方のなかで、鎮痛補助薬を処方されて、「なぜ?」と疑問をもたれた方も少なくはないだろう。「私はうつ病なんだろうか」などとは思わないことである。逆に「鎮痛補助薬を適切に処方できる医師は、痛みのエキスパートなんだ」と考えて間違いはない。
(森本昌宏=近畿大麻酔科講師・祐斎堂森本クリニック医師)